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歯周病菌を抑制?最新研究に見る「乳酸菌の由来」と選び方の医学的背景

消化器内科の専門医が解説_乳酸菌の選び方

健康維持や「腸活」の手段として、広く知られている乳酸菌。
私たちは普段、何を基準に乳酸菌製品を選んでいるでしょうか。
あまり意識せず「どれを選んでも、お腹に良い乳酸菌に変わりはない」と考えてしまいがちですが、最新の医学・微生物学の研究は、乳酸菌は由来によって働きが全然違うことを説明してくれます。

伊藤園のニュースリリース(2026年5月発表)によると、乳酸菌の「出身地(分離された由来)」によって、お口のトラブルを引き起こす歯周病菌への抗菌力が大きく異なることが明らかになりました。
特に茶葉や大麦若葉から分離された特定の乳酸菌は、歯周病菌の増殖を抑えるだけでなく、その病原因子となる遺伝子の発現まで抑制する強い抗菌作用を示したのです。

消化器内科の専門医としての視点から見ても、この「同じ菌種でも由来によって機能が異なる」という事実は、
非常に興味深く、また日々の体調管理において極めて重要な示唆を含んでいます。
今回は、そもそも乳酸菌とは何なのか、解き明かされつつある「由来」が私たちの体にどう影響するのかを解説します。

専門医が解説:乳酸菌の本当の定義とは?

一般的には「乳酸を作る菌」と認識されていますが、実は「乳酸を少しでも作る菌」まで含めると、納豆菌や一部の酪酸菌なども仲間に入ってしまい、科学的な分類としては不正確になってしまいます。

そこで微生物学の世界では、以下の「4つの厳しいオーディション(条件)」をすべてクリアした選ばれし細菌だけを、正式に乳酸菌と定義しています。
難しい専門用語を、親しみやすい例えに置き換えてご紹介します。

条件1:丈夫な「紫の防護服」を着ていること(グラム陽性菌)

細菌は、細胞の壁の厚さによって2種類に大別されます。特殊な染色液で「紫色」に染まる、厚くて丈夫な壁(防護服)を持った細菌であることが最初の条件です。

条件2:形が「丸」か「棒」であること(球菌・桿菌)

顕微鏡で見たときの形が、きれいな丸型(球菌)か、細長いカプセル型(桿菌)に限られます。複雑に枝分かれしたような特殊な形をした菌は、ここでは除外されます。

条件3:酸素がちょっぴり苦手であること(カタラーゼ陰性)

多くの生物は、体内で発生した有害な活性酸素(過酸化水素)を泡(酸素)に変えて消去する「カタラーゼ」という酵素を持っています。しかし、乳酸菌はこの酵素を持っていません。これは、彼らが酸素の少ない環境(腸内など)を好む性質の証明でもあります。

条件4:食べた糖の「半分以上」を乳酸に変えること(50%以上の乳酸産生)

これが最も重要な条件です。単におまけ程度に乳酸を作るのではなく、「食べたブドウ糖などの糖分のうち、50%以上をせっせと乳酸に変える」という、並外れた乳酸製造能力を持っている必要があります。

この4つの条件を満たした乳酸菌が、私たちの腸内や口腔内で「乳酸」を大量に作り出します。病気の引き金となる悪玉菌の多くはアルカリ性の環境を好むため、乳酸菌が周囲を「酸性」に傾けることで、悪玉菌の増殖を物理的に阻害し、健やかな腸内環境(フローラ)を維持してくれるのです。

「動物性」と「植物性」:育った環境による性質と具体的な活用例

乳酸菌は、その生育環境の違いから大きく「動物性」と「植物性」に大別されます。それぞれの特性と、社会でどのように活用されているのか、具体的な例を挙げて見ていきましょう。


1. 動物性乳酸菌(乳製品を中心に育つ菌)

主に牛乳やヤギ乳など、動物の乳に含まれる「乳糖」をエサにして育つ乳酸菌です。

特徴:
栄養が豊富で温度や湿度が一定に保たれた、比較的「恵まれた環境」で生息してきたため、酸や熱などの環境変化に対してはデリケートな一面を持ちます。

具体的な活用例:
ヨーグルトやチーズの発酵に利用されます。動物性乳酸菌は、発酵の過程で乳タンパク質を分解し、独特の旨味成分(アミノ酸)や、酸味の角が取れた「まろやかな風味」を作り出すのが得意です。この性質を活かし、毎日継続して食べやすい嗜好性の高いデザートや乳飲料に広く用いられています。

2. 植物性乳酸菌(植物や穀物を中心に育つ菌)

野菜、果物、茶葉、米といった植物の表面や発酵物に生息する乳酸菌です。

特徴:
栄養が乏しく、塩分濃度が高かったり、植物特有の抗菌成分(ポリフェノールなど)が存在したりする「極めて過酷な環境」を生き抜いてきました。そのため、人間の強い胃酸や胆汁にも耐えやすく、「生きて腸まで届きやすい」という強靭な生命力を持っています。

具体的な活用例:
日本の伝統的な漬物(ぬか漬け、すぐき漬け)や味噌、海外のキムチやサワークラウトなどに活用されています。例えば、塩分濃度の高い環境で働く植物性乳酸菌は、食品の長期保存を可能にすると同時に、独特の深い「酸味や風味」を醸し出します。また、酸に強い特性を活かし、胃酸の影響を受けやすい錠剤やカプセル型の健康食品(サプリメント)の原料としても重宝されています。

3. 植物性の中でも注目される「お米由来」の可能性


植物性乳酸菌の中でも、近年日本の医療・健康分野で注目されているのが、伝統的な日本人の主食である「お米(伝統的な発酵食品や米ぬかなど)」から分離された乳酸菌です。

古来より穀物中心の食生活を続けてきた日本人の腸は、欧米人に比べて腸管が長いとされています。お米由来の乳酸菌は、こうした日本人の腸内環境と親和性が高く、過剰な免疫応答をなだめるなど、私たちの身体に馴染みやすい優れたアプローチを持つことが分かっています。

消化器内科の専門医の視点:菌の多様性と「自分に合う菌」の選び方

今回の研究が示した通り、乳酸菌とひとくくりに言っても、茶葉由来の菌が持つ「高い抗菌力」のように、そのルーツによって得意分野はまったく異なります。

さらに、私たちが人間の腸内環境もまた、指紋のように一人ひとり組成が異なります。
ある患者様にとっては劇的な効果をもたらした乳酸菌が、別の方には全く変化を与えない、ということは臨床の現場でも日常茶飯事です。

これは、あなたの腸にすでに住み着いている「先住菌(常在菌)」との相性があるためです。だからこそ、特定のひとつの菌や製品だけに固執する必要はありません。

今日から実践できるアドバイス

ご自身の体に最も合う乳酸菌(マイ・ベスト乳酸菌)を見つけるためには、以下のステップを推奨します。

まずは「2週間」同一の菌を試す

ヨーグルト、植物性発酵食品、あるいはサプリメントなど、ターゲットを1つ決めたら、まずは毎日2週間、継続して摂取してください。
腸内環境の変化を評価するには最低でもこの期間が必要です。

お腹の「客観的なサイン」を観察する

「便の形状や回数が安定した」「排ガス(おなら)の回数や臭いが気にならなくなった」「腹部膨満感(お腹の張り)が軽減した」といった変化があれば、その乳酸菌はあなたの腸内フローラと適合しているサインです。

体感がなければ「異なる由来」へ切り替える

2週間試して変化が見られない場合は、その菌があなたの先住菌とマッチしなかったと考え、別の由来(例:動物性ヨーグルトから、米由来や茶葉由来の植物性製品へ)にアプローチを切り替えてみてください。

消化器内科の視点:お口の健康が「便秘」や「下痢」に影響する理由

今回の研究で「茶葉由来の乳酸菌が歯周病菌を抑える」とありましたが、これは消化器内科の視点からも極めて重要な知見です。
なぜなら、人間の口腔と腸は一本の管でつながっており、お口の悪玉菌が唾液とともに胃を通り抜け、大腸の腸内フローラを乱す原因になることが近年の研究で分かってきたからです。


歯周病菌などの口腔異常が慢性的になると、腸内環境が悪化し、便秘や下痢、お腹の張り(腹部膨満感)といった消化器症状を引き起こす引き金になります。

つまり、乳酸菌を選び、口内環境(入り口)と腸内環境(出口)を同時にケアすることは、根本的な胃腸の体調管理に直結しているのです。

「何を試しても便通が改善しない」という場合は、乳酸菌の「由来」に目を向け、お口と腸のトータルケアを意識してみることをおすすめします。

結び

乳酸菌の世界は、私たちが想像する以上に多様であり、科学の進歩によってその「由来ごとの強み」が次々と解明されています。ご自身の体調や目的に合わせて、賢く菌を選ぶ時代が来ていると言えるでしょう。

もし、食事やサプリメントの工夫を続けても、慢性的にお腹の張りや便通の異常、腹痛などが続く場合は、単なる腸内環境の乱れだけでなく、重大な消化器疾患のシグナルである可能性も否定できません。

流山市のおおたかの森エリア周辺で地域医療を担う当院では、消化器の専門外来を設け、お一人おひとりの腸の悩みに医学的な根拠からアプローチしています。「お腹の主治医」としていつでもサポートいたしますので、調子が優れないときはどうぞお気軽にご相談ください。


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【参考文献・論文】

本記事で解説した、植物由来の乳酸菌が持つ歯周病菌への抗菌作用や、悪さを指令する遺伝子を抑えるメカニズムに関する具体的な検証データおよび実験結果は、以下の学術論文に基づいています。

(Yuji TSUJIKAWA, et al. Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol. 45 (2), 149-157, 2026.)