
「おなかの超音波(エコー)や大腸カメラで『憩室(けいしつ)がありますね』と言われたけれど、放っておいて大丈夫ですか?」
「おなかに鈍い痛みや違和感、張り、膨満感が続くが、どうすればいいでしょうか?カメラを受けたときは憩室があると言われたけど、他に何も言われませんでした。」
このような不安や悩みを相談されることがあります。
【結論】
大腸憩室は治療が不要なことがほとんどです。しかし、「激しい痛みがなくてもお腹の違和感や痛みが長引く」場合、SUDD(症候性非合併症性憩室症)の可能性があります。一度消化器内科でご相談ください。
SUDDは最近言われるようになってきた病名です。その定義や診断基準、原因、慢性的なお腹の痛みとの関係、さらに注目される治療法(整腸剤の有効性)について、分かりやすく解説します。
憩室(けいしつ)とは?
そもそも憩室とはどんなものでしょうか?
大腸は、単なるパイプではなく、蛇腹ホース(洗濯機のホース)のような構造をしています。伸びたり縮んだりしながら便を肛門へと運んでいきます。加齢や食生活(食物繊維不足など)、便秘などによって腸の内側の圧力が上がると、壁の弱い部分が外側に向かってぽこっと押し出され、小さなポケットのような「くぼみ」ができてしまいます。これが大腸憩室です。

憩室そのものは「腸の壁にできた小さなポケット(くぼみ)」に過ぎないため、症状がなければ経過観察で問題ありません。しかし、このポケットの存在が原因で、大きく分けて3つのトラブルが起こることがあります。
お腹の痛みが起こる3つの理由・病態とSUDDの定義
憩室が存在することによって生じるトラブルは、主に以下の3つに分類されます。
【大腸憩室のトラブル分類】
1. 憩室出血(けいしつしゅっけつ)…… ポケットの血管が破れて下血する
2. 憩室炎(けいしつえん) …… ポケットに強い炎症が起き、激痛や発熱を伴う
3. SUDD(サッド) …… 強い炎症はないが、鈍痛や張りなどの不快感が続く

憩室出血(けいしつしゅっけつ)
ポケットの底を通る血管が切れ、突然お尻から血が出る(下血)病態です。痛みを伴わないことが多く、血便に驚いて受診されるケースが典型的です。繰り返し起こり貧血がひどくなると、輸血や手術が必要になることもあります。
憩室炎(けいしつえん)
憩室によるくぼみで薄くなった腸壁、憩室に詰まった便などで圧迫されると血流が悪くなります。血流が悪くなると周囲の粘膜が障害を受けます。
それによって強い炎症を起こした状態です。強い下腹部痛、発熱、血液検査での炎症反応(CRP上昇など)がみられます。
憩室炎がさらに重症化すると、腸に穴(穿孔)が開き、お腹の中に便や膿が飛び散って「腹膜炎」という命に関わる深刻な状態に陥る危険性があります。
憩室炎にとどまる状態であれば絶食と抗生剤で治療できますが、いったん穿孔してしまうと緊急で手術が必要になります。
症候性非合併症性憩室症(SUDD(サッド):Symptomatic Uncomplicated Diverticular Disease)
SUDD(症候性非合併症性憩室症)とは、「大腸憩室が存在し、発熱や顕著な強い炎症(憩室炎など)や顕著な合併症がないにもかかわらず、左下腹部を中心とした慢性・持続的な腹痛や不快感、腹部膨満感(お腹の張り)、便通異常(下痢や便秘)といった消化器症状が続く病態」と定義されています。
SUDDの具体的な診断基準
診察室では、患者さんの症状や検査結果を照らし合わせながら、慎重にSUDDの診断を行っていきます。SUDDの主な診断基準(要素)は以下の通りです。
【SUDDの診断基準・チェックポイント】
1. 大腸憩室の存在が確認されていること
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)、腹部CT、超音波検査などで大腸に憩室が確認されている
2. お腹の症状があること
「左下腹部」を中心とした慢性・持続的な腹痛や不快感がある
お腹の張り(膨満感)や便通異常(下痢・便秘)を伴う
痛みは排便後もすっきり消えにくい特徴がある(※過敏性腸症候群との違い)
3. 顕著な「全身性炎症」や「合併症」がないこと(非合併症)
発熱(37.5℃以上)がない。
血液検査で白血球(WBC)やCRPの顕著な上昇がみられない。
CTや超音波検査で憩室炎(腸壁の高度な肥厚や周囲の脂肪織炎)、膿瘍、穿孔などの合併症が認められない
4. 他の疾患(大腸がん、炎症性腸疾患など)が除外されていること
内視鏡検査などで、痛みの原因となる他の大きな病気(がん・ポリープ・潰瘍性大腸炎など)がないことを確認している
専門医から一言:なぜ「SUDD」でお腹が痛むのか?

まず頭に入れておきたいことは、憩室炎とSUDDは別物であるということです。
憩室炎が「火事」だとすれば、SUDDは「炎は上がっていないが、消えかかった炭火のように、微小な炎症や腸の知覚過敏がじわじわと続いている状態」です。
近年の研究では、SUDDの発症・継続には以下のような要素が複雑に絡み合っていると考えられています。
腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ(Dysbiosis)
憩室というくぼみに便が停留しやすくなることで、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れ、微小な炎症を引き起こします。
腸の知覚過敏・運動機能の乱れ
腸の神経が敏感になり、わずかなガスや便の移動でも「痛み」や「張り」として脳に伝わってしまいます。
過敏性腸症候群(IBS)と似ていますが、SUDDは左下腹部に比較的持続する痛みを生じやすく、排便後も痛みがスッキリ抜けにくいという特徴があります。
最新研究で判明:SUDD治療における「ミヤBM(宮入菌)」の有効性
SUDDに対しては、抗菌薬(リファキシミン等)や炎症を抑える薬(メサラジン等)などの投与が行われてきましたが、近年「ミヤBM(酪酸菌:Clostridium butyricum CBM588株)」などのプロバイオティクス(整腸剤)を用いたアプローチの有効性が研究で示されています。
なぜミヤBM(酪酸菌)がSUDDに有効なのか?
ミヤBMに含まれる宮入菌(酪酸菌)は、大腸内で「酪酸(短鎖脂肪酸の一種)」という重要な物質を生成します。

腸のバリア機能を修復・強化する
酪酸は大腸の粘膜細胞の最大のエネルギー源となります。粘膜の細胞同士をつなぎ止める構造(タイトジャンクション)を強化し、粘液の分泌を促すことで、「防護服」のように腸の粘膜バリアを修復します。
微小な炎症を抑える
酪酸には、免疫細胞に働きかけて過剰な炎症反応を抑える強い抗炎症作用があります。SUDDの根底にある「消えかかった炭火のような微小炎症」を鎮めます。
腸内フローラのバランスを整え、お腹の痛みを和らげる
悪玉菌の繁殖を防いで健全な腸内環境を取り戻すことで、腸の過剰な知覚過敏や張りを軽減します。
海外で行われた最新の研究(2025年発表)では、12ヶ月間にわたりSUDD患者さんにミヤBM(CBM588)を投与したところ、従来の抗菌薬治療と同等以上に憩室炎の再発を防ぐ効果が示されただけでなく、「腹痛の頻度や強さの軽減」「お腹の張りや残便感の改善」「十分な症状の緩和」において優秀な成績が得られたことが報告されています。
身体に負担の少ない整腸剤でSUDDの症状や微小炎症をしっかりコントロールできることは、患者さんにとっても非常に大きなメリットとなります。
検査の必要性と安心のメッセージ
「若いのに憩室があると言われた」「お腹の違和感が消えない」と深刻に悩み、過度に不安を感じてしまう方も少なくありません。
しかし、若い世代の方や軽度の方で、いきなり重篤な病気がひそんでいることはほとんどありません。一時的な腸の緊張や機能低下によるケースも多いため、まずは安心してください。
内視鏡検査(大腸カメラ)や診察が必要か?
「ただの憩室による違和感(SUDD)」なのか「他の重大な病気(大腸がんやポリープ、炎症性腸疾患など)」なのかを明確に区別するために診察、検査を受けて、客観的に「大きな病気がないことを確認して、安心することをすすめます。
「大きな病気がないか確認してスッキリ安心したい」「ずっと続くお腹の張りを早く解消したい」という場合は、放置せずに消化器内科を受診しましょう。
深刻に考えずに放置してたら実は癌だったということは、臨床の現場では本当にアルアルです。検査さえしておけばと嘆くよりも、早めに検査を受けて大きな問題がなくてよかったねの方がずっと良いですね。
受診推奨チェックリスト
以下の項目に1つでも当てはまる場合は、一度消化器内科へのご相談をおすすめします。
左下腹部(または下腹部全般)に、鈍い痛みや違和感が2週間以上続いている
お腹が張ってガスがたまりやすく、不快感がある
便秘と下痢を繰り返すなど、便通が不安定になっている
便に血が混じった、または全体的に黒っぽい便が出た
発熱(37.5℃以上)を伴うお腹の痛みがある(※憩室炎の可能性があるため早めの受診が必要です)
自宅でできる生活習慣の改善アドバイス
SUDDの症状緩和や憩室炎の予防には、日常生活のケアと整腸がとても有効です。
1. 水溶性食物繊維を意識して摂る(酪酸菌の「エサ」を与える)
ミヤBMのような酪酸菌が元気に働くためには、そのエサとなる水溶性食物繊維(海藻類、もち麦、オクラ、きのこ類、熟した果物など)が必要です。便を柔らかく保ち、腸の内圧上昇(ポケットにかかる負担)を防ぐ効果もあります。
2. こまめな水分補給と適度な運動
朝起きたらコップ1杯の水を飲み、1日1.5〜2L程度の水分を心がけましょう。また、1日20分程度のウォーキングは腸の蠕動(ぜんどう)運動を適度に促し、便やガスの滞留を防ぎます
3. 排便時に強く力まない
便秘のときに無理に強くいきむと、腸の内圧が一気に跳ね上がり、憩室への負担が増大します。便意を感じたら我慢せずトイレに行き、足台などを置いて前かがみの姿勢をとるとスムーズに排便しやすくなります。
おわりに
お腹の慢性的な痛みや不快感は、「我慢すればなんとかなるから……」と先延ばしにされがちです。しかし、SUDDのように適切な診断とミヤBMをはじめとするお薬の処方、生活習慣の整え方によって症状が大きく和らぐケースは多く存在します。
普段の食生活を始めとする生活習慣で見直せるところをチェックしていきましょう。そして何か心配なことがあるときは消化器内科でぜひご相談ください。

