最近、ダウンタウンの松本人志さんが大腸癌の手術を公表され、話題になりました。ニュースやメディアでは「人工肛門」という言葉が取り上げられ、「癌がかなり深刻な状態なのでは?」「末期なのでは?」と不安を感じた方も多いのではないでしょうか。
しかし、現場で肛門疾患を診察する立場から言わせていただくと、「人工肛門がある=癌の末期」とは限りません。今回は、医師の視点から、人工肛門の仕組みと、なぜ手術でそれが必要になるのかを分かりやすく解説します。
人工肛門(ストーマ)とは?「便の逃げ道」の役割
まず、人工肛門(ストーマ)は癌の進行度と直接の関係はありません。ストーマは一言で言えば、「手術部位を安全に治すための『バイパス(迂回路)』」です。
人工肛門には二種類あります。「永久」人工肛門(ストーマ)と、「一時的」人工肛門(ストーマ)です。
1. 永久人工肛門(ストーマ):筋肉を温存できない場合
私たちの肛門は、お尻の筋肉(肛門括約筋)が「締める・緩める」をコントロールすることで、便やガスを我慢したり、出したりしています。これを「禁制を保つ」と言います。しかし、癌が肛門に近い場所にあるため、手術で括約筋をすべて切除しなければならないことがあります。
癌を根治させるために「便を我慢するための筋肉」を切除する。そうするとたとえ腸と肛門をつなぎ合わせても便をコントロールできません。自分の意志で肛門をしめられないので便が漏れ続けます。

括約筋をすべて切除する必要がある場合、ストーマを作って腸をお腹の上に持ち上げ、そこから便が出るようにします。自分の意志とは関係なく便が出てきますが、袋をつけているので服を汚さず、臭いも漏れません。実は永久ストーマをつけている人は世の中にたくさんいます。
恥ずかしいとか変な目で見られることを心配して周りの方に話をしないだけなのです。永久ストーマになると障害者手帳が交付されますが、その交付件数から推定される永久ストーマ保有者は日本国内に20万人以上とされています。
2. 一時的人工肛門:つなぎ目を安静にするための一時的なバイパス
ダウンタウンの松本さんのケースはこちらだと思われます。癌を含む腸を取り除いた後、残った腸同士をつなぎ合わせますが、肛門に比較的近い場所の腸を切除した場合、骨盤の奥深くで腸をつなぐ必要があります。技術的に難しかったり、また腸がしっかりとつながるための血流が確保されなかったりすることがあります。
そのために腸がうまくつながらないことがあります(縫合不全)。縫合不全を起こしてつなぎ目から便がお腹の中に漏れると、重大な合併症(腹膜炎)につながります。
そこで、つなぎ目に「便が通らないようにして、つなぎ目を安静に保つ」ために、一時的に別の出口(バイパス)を作ります。これが一時的人工肛門です。便が通らないようにしておくと、仮に縫合不全が起こったとしても、時間がたつと自然の治癒力で穴はふさがりきちんとつながります。
そこで、手術後しばらくは人工肛門としてつなぎ目を安静に保ち、しかる後にきちんとつながっていることが確認できれば、人工肛門を閉鎖して元通り肛門から排便できるように手術をします。

「血便=痔」と決めつけないで
松本さんの報道でもあったように、大腸癌の発見は「おしりの出血」から始まることも珍しくありません。
- 「いつもの痔だろう」と放置していませんか?
- 検査が怖いからと、病院を先延ばしにしていませんか?
肛門科の医師にとって「痔だと思って受診したら癌だった」というのは、日常的な診察風景です。恥ずかしがる必要は全くありません。たとえ癌ができていたとしても早期に発見できれば、内視鏡治療だけで治せる可能性も高いのです。最近では鎮静剤を使って内視鏡検査を行うことで、痛み無く検査を受けることができます。
「便潜血検査が陽性だった方は、必ず精密検査を受けてください」
健康診断や人間ドックで行われる「便潜血検査」が陽性だった場合、それは「大腸からの出血」を示唆する重要なサインであり、内視鏡検査を受けることが必要です。せっかく自分では気づかないような出血を検査が教えてくれているのに、多くの方は検査を受けずに放置してしまいます。とてももったいないと思います。
便潜血検査で陽性となった方のうち、大腸がんが見つかるケースは実は多くないので過度の心配は不要です。しかし癌になる前の良性のポリープが見つかることは珍しくありません。大腸がんではなかったと確認することが非常に大切です。大腸内視鏡を受けると、大腸がんによる死亡率が半分以下になるという研究結果が、いくつも報告されています。
今日からできる「お尻と腸のサイン」チェック
- 血便の変化を観察する: 色や回数に変化はないか。
- 便通異常を確認する: 便が細くなった、残便感がある、便秘と下痢を繰り返すことはないか。
- 勇気を出して受診する: 2週間以上続く症状があれば、迷わず専門医に相談しましょう。
専門医からのお願い
手術が必要だということは、ある程度癌が進行していたことを意味しますが、それが即座に「末期」を指すわけではありません。人工肛門は、あくまで安全に根治を目指すための治療プロセスの一つです。
南流山、流山おおたかの森を始めとする流山市や新松戸、柏、三郷方面から多くの患者さんに来ていただいている南流山内視鏡クリニックでは、患者さんの不安に寄り添った丁寧な診察を心がけています。「恥ずかしい」「怖い」という気持ちが、早期発見の妨げにならないようにしてください。少しでも「おかしいな」と思ったら、お一人で悩まずに、まずは専門医にその不安を預けてみてください。
【参考・論文】

