
「今までと同じように食べているのに、最近は胃がもたれる」
「40代になってから、お腹の張りや便秘がひどくなった」
「胃カメラでは異常がないと言われたのに、どうも調子が悪い」
40代後半から50代の女性で、このような胃腸の不調を感じている方はいませんか。
こんにちは。南流山内視鏡おなかクリニック院長の前田です。
胃もたれや腹痛が続くと、胃炎や過敏性腸症候群(IBS)などを考えます。しかし、この年代の女性では、もう一つ考えておきたいことがあります。
それが「更年期」です。
更年期というと、顔のほてりや発汗、イライラなどが有名ですが、実は胃もたれ、腹部膨満感、便秘、下痢などの胃腸症状を訴える方もいます。
今回は、更年期と胃腸の意外な関係について解説します。
1.女性ホルモンが減ると、脳の働きも変わる
日本人女性の閉経年齢は平均50歳前後。その前後5年間、45〜55歳頃を一般的に「更年期」と呼びます。
この時期になると卵巣の働きが低下し、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく変動しながら減少していきます。
ここで少しだけ、脳とホルモンの仕組みを説明します。
脳には「視床下部」という、ホルモン分泌を調整する司令塔があります。
通常は、視床下部からの指令を受けた脳下垂体が、卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌して卵巣に働きかけ、エストロゲンを作らせています。
エストロゲンが十分に分泌されると、その情報が脳に戻り、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が抑えられます。

いわば、ホルモンの量を自動調整する仕組みです。
ところが、更年期になると卵巣が十分に反応できなくなります。
脳は卵巣を刺激しようと卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を増やしますが、それでもエストロゲンは十分に作られません。
さらに重要なのが、エストロゲンの減少によって、視床下部の神経活動そのものにも変化が起こることです。
実は視床下部は、ホルモンだけでなく、体温や自律神経の働きも調整しています。
更年期に突然体が熱くなって汗が噴き出す「ホットフラッシュ」も、エストロゲンの減少による体温調節の変化が深く関わっています。
つまり、更年期には女性ホルモンだけでなく、脳や自律神経の働きにも変化が生じているのです。
2.なぜ更年期に胃もたれ・便秘・下痢が起こる?
では、この変化が胃腸とどう関係するのでしょうか。
実は、胃や腸の動きは自律神経によって細かく調整されています。
例えば、緊張するとお腹が痛くなったり、ストレスで下痢をしたりすることがありますよね。
これは脳と腸が密接につながっているためで、この関係を「脳腸相関」と呼びます。
更年期の胃腸症状には、主に3つの要因が関係していると考えられています。

- ① 自律神経の変化:胃腸の運動や感覚の調節が変化し、胃もたれや便通異常などにつながる可能性があります。
- ② 女性ホルモンの影響:実は消化管にもエストロゲンなどの受容体があります。ホルモンの変化が、腸の動きや痛みの感じ方、腸内細菌にも影響する可能性が研究されています。
- ③ 睡眠不足やストレス:更年期に起こりやすい不眠や精神的なストレスが、胃腸の知覚過敏や腹痛を悪化させることがあります。
ただし、更年期に起こる胃腸症状のすべてが、女性ホルモンの低下だけで説明できるわけではありません。
もともと機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)がある方では、更年期の変化が症状に影響している可能性もあります。
3.「更年期だから仕方ない」と決めつけない
更年期障害を疑うときには、血液検査でエストラジオール(E2)や卵胞刺激ホルモン(FSH)を測定することがあります。
ただし、これらのホルモン値は日によって大きく変動します。
そのため、45歳以上で典型的なほてりなどの症状や月経周期の変化がある場合、更年期への移行は必ずしも血液検査を行わなくても臨床的に判断できます。
一方で、「更年期だから」と思い込んで、別の病気を見逃してしまうことには注意が必要です。

特に気をつけたいのが甲状腺の病気です。
甲状腺機能が亢進すると、発汗、動悸、下痢、イライラなどが現れ、逆に低下すると、冷え、倦怠感、便秘などが現れます。
どちらも更年期症状と非常によく似ています。
また、消化器内科医として強調したいのは、胃腸の症状が続く場合には、胃潰瘍、胃がん、大腸がん、胆石症などの病気が隠れていないかも確認する必要があるということです。
特に血便、体重減少、貧血、飲み込みにくさなどがある場合には、早めに受診してください。
症状に応じて胃カメラや大腸カメラなどの検査を行い、大きな病気が隠れていないと確認できることは、その後の治療を進めるうえでも大切だと思います。
4.更年期の胃腸不調はどう治療する?
治療には、大きく分けて2つのアプローチがあります。
更年期障害そのものに対する治療と、胃腸症状そのものに対する治療です。

更年期障害に対する治療
代表的なのがホルモン補充療法(HRT)です。
減少したエストロゲンを補う治療で、特にホットフラッシュや発汗などに効果が期待できます。乳がんや血栓症などのリスク、子宮の有無などを考慮し、主に婦人科で行います。
また、漢方薬もよく使用されます。
イライラや不安が強い方には加味逍遙散、冷えやむくみが目立つ方には当帰芍薬散、のぼせや肩こりがある方には桂枝茯苓丸など、症状や体質に応じて使い分けます。
さらに、プラセンタ注射も選択肢の一つです。ただし、その効果には不明な部分もあり、患者さんの状態に合わせて検討します。
なお、2026年10月からプラセンタ注射後の献血制限が変更され、最終使用日から3か月経過すれば、ほかの条件を満たす場合に献血が可能となりました。
胃腸症状そのものに対する治療
ここからが消化器内科医としてお伝えしたい部分です。
更年期の治療だけで、胃腸の不調がすべて改善するとは限りません。
そのため、胃腸症状に合わせた治療を組み合わせることが重要です。
① 胸やけ・胃酸の逆流がある場合
胃食道逆流症(GERD)が考えられます。
まずは、脂っこい食事を控え、食べ過ぎを避けること。柑橘類や酸味の強い食品、甘い飲料などで胸やけが悪化する方は、それらを調整してみましょう。
特に重要なのが食事の時間です。
夕食は就寝の3時間前までに済ませ、食後すぐ横にならないことをお勧めします。
また、猫背や前かがみなど、お腹を圧迫する姿勢にも注意しましょう。
症状が続く場合には、胃酸の分泌を抑える薬(PPIやP-CABなど)を使用します。
② 胃もたれ・食後の膨満感がある場合
機能性ディスペプシア(FD)が考えられます。
胃の動きや、食事に合わせて胃が広がる機能、痛みの感じ方などが関係する病気です。
一度にたくさん食べず、少量ずつ食べることや、脂質の多い食事を控えることが役立ちます。
薬物療法では、胃酸分泌抑制薬や胃の運動機能を改善するアコチアミド、漢方薬の六君子湯などを症状に応じて使用します。
③ 便秘・下痢・お腹の張りがある場合
過敏性腸症候群(IBS)なども考えます。
便秘が中心であれば、水分や食物繊維の摂取を見直し、必要に応じて便秘薬を使用します。
下痢が中心であれば、食事内容の調整や整腸薬、止瀉薬などを検討します。
また、お腹が張る方では、腸内で発酵しやすい糖質(FODMAP)が関係している場合もあります。
食事療法は人によって合うものが異なるため、症状を見ながら調整していくことが大切です。
おわりに|更年期の胃腸不調は我慢しなくてよい
40代後半から胃腸の調子が変わってきた場合、更年期の影響が関係している可能性があります。
ただし、すべてを更年期のせいにせず、胃腸に別の病気が隠れていないか確認することも重要です。
そのうえで、更年期障害に対する治療と、胃食道逆流症や機能性ディスペプシアなどに対する治療を組み合わせることで、症状の改善を目指すことができます。
「年齢のせいだから仕方ない」と我慢せず、気になる症状があれば、消化器内科や婦人科に相談してみてください。
この記事が、ご自身の体調の変化を理解するきっかけになればうれしいです。

