虚血性腸炎

サマリー(この記事のポイント)

「夜中に突然お腹が激しく痛み、下痢のあとに真っ赤な血便が出た」——それは虚血性腸炎の極めて典型的な症状です。この記事の重要なポイントをまとめました。

  • どんな病気?:大腸の血流が一時的に悪化して粘膜が傷つく病気です。従来は高齢者の病気とされましたが、現代では「頑固な便秘」や「ストレスによる腸のけいれん」が引き金となり、20〜40代の若い世代にも増加しています。
  • 典型的な症状:「①夜中・明け方の突然の激しい腹痛(主に左下腹部)」⇒「②トイレにこもるがすぐ出ない」⇒「③下痢、その後に真っ赤な血便」という3ステップの経過をたどります。
  • 他の病気との違い:お尻の出血(痔)はお腹が痛くなりません。また、突然大量に出血する「憩室出血」も基本的には痛みを伴わないため、「激しい腹痛があるか」は虚血性腸炎を見極める大事なポイントです。
  • ネットの情報ほど怖くない:ネットには「腸が腐る」「緊急手術」という怖い言葉もありますが、現代の高度な診断技術の現場では、9割以上が綺麗になおる「一過性(軽症)型」です。過度に恐れる必要はありません。
  • 当院の検査・治療方針:症状が落ち着いていれば、最も心配な「大腸がん」を確実に除外するため、積極的に大腸カメラを行います。お腹に痛みが残っていても安心なよう、鎮静剤を使用し、お腹が張らない「二酸化炭素」を用いた苦痛のない優しい検査を徹底しています。
  • 治療と再発予防:一番ひどい時期は絶食で腸を休ませ、軽快すれば食事を再開します。再発率は約6.8〜16%あり、確実な予防策はありませんが、当院では体に優しいお薬での「便秘治療」と、血流を促すために「飲み水として1日1,500ml(1.5L)」を目標とした水分摂取をおすすめします。

血便が出るとパニックになりがちですが、適切な初期診断を行えば怖くありません。年間5,000件以上の内視鏡実績を持つ当院へ、いつでも我慢せずご相談ください。

(※詳しいメカニズムや、夜中に痛くなる詳しい理由は、以下の本文で図解を交えて解説しています)

虚血性腸炎について簡潔にまとめた記事はこちら

当院の診療のご予約はこちら

虚血性腸炎とは?原因・症状から安全な内視鏡検査まで

「夜中に突然、おなかが激しく痛み出した」「トイレに駆け込んだけどなかなか便が出ず、出始めたらそのあと下痢になった」「最後には血便が出てきて恐ろしくなった……」

当院の専門外来には、このような強い不安を抱えて受診される患者さんが多くいらっしゃいます。一見すると大変恐ろしい病気に思えますが、このエピソードは「虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)」の極めて典型的な症状です。

虚血性腸炎は、大腸の血流が一時的に悪くなることで起こる病気です。ほとんどの場合、痛みや出血は症状発症時が最大で、時間とともに軽快し、短期間で自然に良くなることが多いです。しかしごく稀ながら重症化するケースや、腹痛や血便の原因が他の大腸の病気(大腸がんや炎症性腸疾患など)のこともあります。

当院は南流山「内視鏡」「おなか」クリニックであり、同時に「肛門科」の診察も行っているため、日常的に「お腹の痛み」や「血便」に悩む患者様が非常に多くご来院されます。お尻の病気(痔など)も含めて血便の原因をトータルで見極められる環境があるからこそ、一般的な内科クリニックと比較しても虚血性腸炎の発見・診断数が多いのではないかと思います。2021年10月に開院してから2026年5月までの間に70名もの方を虚血性腸炎と診断しています。当院が血便の診断、治療が受けられると認知されてきたのか、はたまた虚血性腸炎になる人が増えているのか、年々診断される方が増えています。

人数
2021年(2021/10/5〜)2人
2022年3人
2023年11人
2024年12人
2025年25人
2026年(1/1〜5/31の5か月間)17人

※当院で内視鏡検査により虚血性腸炎と確定診断された方の人数

そもそも「虚血(きょけつ)」とは?

虚血とは、「組織にめぐる血液の量が一時的に不足すること」を言います。心臓の血管が狭くなって胸が苦しくなる、狭心症や心筋梗塞のことを「虚血性心疾患」と言いますが、これと同じメカニズムです。心臓で起こる血管のトラブルが、大腸の血管で一時的に起こってしまった状態が「虚血性腸炎」なのです。

腸の壁に十分な血液(酸素や栄養)が届かなくなると、腸の粘膜がダメージを受けてただれてしまいます(炎症や潰瘍)。その結果、「突然の激しい腹痛」が起こり、傷ついた粘膜から出血することで「血便(下血)」が引き起こされます。

大腸のルート(解剖)と、病気が起こりやすい場所

大腸の解剖図(盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸)人間の大腸は、ぐるりとお腹を一周するようなおよそ1.5メートルの1本の管です。実は、場所によって以下のように分かりやすい名前がつけられています。

盲腸(もうちょう):先が見通せない、行き止まりであることを表す(肛門側からみると大腸の終点)。
上行(じょうこう)結腸:右下腹部から始まり、右上に向かって「上に行く」腸です。
横行(おうこう)結腸:右上から左上に向かって「横に行く」腸です。
下行(かこう)結腸:左上から左下に向かって「下に行く」腸です。
S状(えすじょう)結腸:左下腹部から肛門へ向かう途中にある、ぐにゃぐにゃと「S字状にカーブしている」腸です。(「S字結腸」という言葉をよく聞きますが、「S状結腸」が正確な名前です)
直腸(ちょくちょう):最後に肛門へと「直線状に」つながる腸です。

虚血性腸炎は、大腸のどこにでも起こるわけではありません。「下行結腸」や「S状結腸」という、お腹の左側のエリアに圧倒的に多く発症する(好発する)という大きな特徴があります。

なぜ「S状結腸(左側のおなか)」に起こりやすいの?

これには大腸の血管の構造(解剖学的な理由)が関係しています。大腸にはいくつかの大きな動脈から枝分かれした細い血管網が張り巡らされていますが、ちょうど左側のエリア(下行結腸やS状結腸のあたり)は、別々の太い動脈から伸びてきた血管の「終着点同士が合流する境界線(吻合部)」にあたります。

ここは例えるなら、水道管のいちばん末端のような場所です。そのため、体全体の血流が少しでも滞ると、真っ先に影響を受けて水(血液)が届きにくくなってしまいます。さらに、S状結腸はぐにゃぐにゃと曲がっているため便が滞留しやすく、便秘のときに圧力がかかりやすい場所でもあります。

このように「血管の末端であること」と「便が溜まりやすいこと」が重なるため、虚血性腸炎が起きると、左下腹部やへその下あたりが激しく痛むことになるのです。

虚血性腸炎になりやすい人の特徴:昔と今の違い

昔から言われている「典型的なリスク」

かつて虚血性腸炎は、血管の老化や持病がある「高齢者の病気」とされてきました。日本消化器病学会の各種ガイドラインの背景データや国内外の統計でも、以下のようなリスク因子がある方に発症しやすいことが明確に示されています。

血管の老化(動脈硬化):血管が硬くなる「動脈硬化」や、血流が不安定になりやすい不整脈、微小な血管がダメージを受けやすい「糖尿病」などの持病があると、急激な血流の変化に対応できず、大腸の虚血が起こりやすくなります。
年齢別の発症割合:米国の著名な消化器病学会誌である『The American Journal of Gastroenterology』の臨床ガイドラインなどに掲載された大規模な疫学調査によると、虚血性腸炎の患者全体の約80%は高齢者が占めており、年齢が上がるにつれて発症率が上がることが分かっています。このことからも、年齢や血管の持病が重大なリスク因子であることは間違いありません。
発症部位のデータ:国内外の臨床統計において、虚血性腸炎の大半(約8割以上)は「左側の大腸(下行結腸からS状結腸など)」に集中して発症することが統計的にも証明されています。

【現在では】若い世代でも意外と多い

しかし、近年の臨床現場は様変わりしています。特に目立った持病(糖尿病や高血圧など)がない方や、20代〜40代といった若い世代の患者さんでも診断されることがよくあります。

血管に問題がない若い世代の患者さんに、なぜ虚血性腸炎が起こるのでしょうか。その大きな引き金として、現代病ともいえる「便秘」や「過敏性腸症候群(IBS)」が挙げられます。国際的な医学論文データベース(PubMed)に掲載されている大規模な臨床調査データ(※1)によると、虚血性腸炎のリスク増加はこのように報告されています。

便秘がある方:便秘のない人に比べて、虚血性腸炎のリスクが2.78倍増える
過敏性腸症候群(IBS)がある方:IBSのない人に比べて、発症リスクが便秘よりも高い3.17倍になることが分かっています。

高齢者の場合は動脈硬化などによる血管自体の問題(血流の低下)が主な原因ですが、若い世代や持病のない方にとっては、頑固な便秘でトイレでいきむことによる腸管への負担、過敏性腸症候群(IBS)に伴う腸の激しいけいれん(過緊張)、水分不足(脱水)、過度なダイエットなどが一時的な血流悪化を招き、発症の原因となっていると考えられます。

(※1 参考文献出典:Suh DC, Kahler KH, Choi IS, et al. Patients with irritable bowel syndrome or constipation have an increased risk for ischaemic colitis. Aliment Pharmacol Ther 2007)

虚血性腸炎の典型的な症状:3つのステップと見分け方

虚血性腸炎は、実は私たち専門医が患者さんのお話を詳しく伺う(問診)だけで、「おそらく虚血性腸炎だろう」とおおよその見当がつくほど、非常に特徴的なパターンの経過をたどります。多くの患者様が経験される、典型的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:突然の激しい腹痛(特に左下腹部)

夜中や明け方に、突然お腹(特に左側やへその下あたり)が雑巾を絞られるように激しく痛み出します。痛みが強くて冷や汗を伴うことも珍しくありません。この「前触れのない突然の腹痛」が虚血性腸炎の最も典型的な始まり方です。

💡なぜ夜中や明け方に多いの? 人間は寝ている間、血圧が自然と下がります。また、日中に頑固な便秘でトイレで強く「いきんだ」ことによる腸への負担や、就寝中の脱水(水分不足)などが重なり、数時間のタイムラグを経て、夜中や明け方に大腸の血流低下が限界を迎えて発症するためです。

ステップ2:便意をもよおしてトイレに行くが、すぐには出ない

激しい痛みに襲われると同時に、強い便意を感じてトイレに駆け込みます。しかし、すぐには便が出ず、痛みに耐えながらしばらくトイレにこもることになります。

この痛みは狭心症など虚血性心疾患と同じく、血流不足によって酸素や栄養の供給が不足した結果、大腸の細胞からブラジキニンや乳酸といった体の危険を知らせる物質が放出され、これが神経を刺激することによって生じます。さらに、血流不足に陥った大腸がパニックを起こし、腸管が激しくけいれん(過緊張)を繰り返すため、便意があるのにすんなり出ない状態になります。

ステップ3:下痢、そして「血便(下血)」へ

しばらくするとようやく便が出始めますが、すぐに泥状の下痢便に変わります。そしてここからが特徴的です。最初は普通の下痢便に「血液が混じる」程度ですが、その後トイレに行くたびに血液の割合が増え、最終的には「ほとんど真っ赤な血(鮮血)だけ」が何回も続けて出るようになります。この下痢便から血便への変化は数時間以内に起こります。

なぜ問診だけで見当がつくのか?「痛みを伴う血便」の重要性

お尻から血が出る病気はいくつもありますが、「突然の激しいお腹の痛みを伴う」という点が、虚血性腸炎の一番の特徴になります。他のお尻の病気や大腸の病気と比較してみましょう。

憩室出血(けいしつしゅっけつ):高齢者を中心に増えている「大腸の壁のくぼみ(憩室)から出血する病気」ですが、憩室出血は基本的に腹痛を伴いません。あるとき突然、痛みもなく大量の血便が出ることが特徴です。
痔核・裂肛(いわゆるいぼ痔・切れ痔):肛門から出血する病気の代表格ですが、お腹に激しい痛みを起こすことはありません。ただし、急性腸炎などでお腹が痛くなって下痢をし、それによって肛門に負担がかかって出血するという経過(下痢の二次災害による出血)で、腹痛+血便という状況はありえます。問診やお腹・肛門の診察で虚血性腸炎との区別にあたりをつけます。
発熱の有無:腸の感染症(感染性腸炎など)では発熱を伴うことが多いですが、虚血性腸炎は一時的な血流不足が原因であるため、ほとんどのケースで発熱を伴うことはありません。

つまり、「熱はないのに、突然お腹(特に左側)が激しく痛み、その後に下痢と真っ赤な血便が続いた」というステップを踏んでいる場合、まず虚血性腸炎を疑います。

⚠️ 高齢者の方への注意点
基本的には強い痛みを伴う病気ですが、高齢者の方の場合、特徴である「強い腹痛」をあまり感じず、下痢の後に血便が出てきたと話されるケースがあります。当院では、専門的な肛門科・消化器内科の両方の視点からアプローチし、他の血便(憩室出血や痔核・裂肛、癌や潰瘍性大腸炎など)との見分けを慎重に行っています。今までに経験の無い血便が出た場合は自己判断で様子を見ず、すぐにご相談ください。

当院の診療のご予約はこちら

診察で血便をきたす他の病気と区別する(鑑別疾患)

血便や下血(お尻から血が出ること)を自覚して来院される患者様を診察する際、私たち専門医の頭の中には、主に以下の5つの代表的な病気が浮かんでいます。

  • 肛門の病気(痔核・裂肛:いわゆるいぼ痔や切れ痔)
  • 虚血性腸炎
  • 憩室出血(けいしつしゅっけつ)
  • 大腸がんや大腸ポリープ
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)

これらはすべて血便を引き起こす可能性がある病気ですが、虚血性腸炎には「①突然の激しい腹痛」「②最初は便が出にくい、その後下痢になる」「③最後に血便が出る」という極めて特徴的な時系列の経過があります。この経過を丁寧に紐解くことで、他の4つの病気と区別(鑑別)していきます。

① 痔核・裂肛(痔による出血)との見分け方

痔核や裂肛といった肛門の病気では、基本的にお腹の痛み(腹痛)を伴いません。また、診察室で「肛門鏡(こうもんきょう)」という専用の器具を使って肛門のすぐ奥(直腸)を直接観察する検査を行います。

虚血性腸炎であれば大腸の奥から血が流れてきているため直腸にも血液がたまっていますが、肛門の病気であれば直腸の奥はキレイな状態のことがほとんどです。肛門鏡で見て、痔核や裂肛があり、なおかつ直腸の奥に血液が認められなければ、虚血性腸炎ではなく痔による出血の可能性が非常に高くなります。

② 憩室出血との見分け方

大腸の壁にある「憩室」という小さなくぼみの血管が破れて起こる憩室出血は、「突然大量の血便が出る」という点では虚血性腸炎と非常によく似ています。便意を感じてトイレに行くと、便ではなくて血が出てきます。しかし、日本消化器病学会のガイドライン等でも強調されている通り、憩室出血は通常、お腹の痛みを伴わない(無痛性の血便である)という違いがあります。突然の激しい痛みのあとに血便が出たのであれば、憩室出血よりも虚血性腸炎の可能性が上がります。

③ 大腸がんや大腸ポリープとの見分け方

大腸がんやポリープは、ある程度の大きさ(ボリューム)にならないと、目で見てはっきりと分かるような出血を起こしません。そのため、がんによる出血が目立つレベルになると、がんが便の通過をさまたげるため、「便が出にくい」「便が細い」「お腹がしぶる、重苦しい」といった症状を日常的に伴うことが多いです。また、虚血性腸炎のように「ある日突然、激痛とともに血が出る」のではなく、「そういえば数ヶ月前から時々血が混ざっていて、最初は痔かと思っていたけれどやっぱりおかしい……」というような、じわじわとした時間経過をたどるのが特徴です。

④ 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)との見分け方

厚生労働省の指定難病でもある潰瘍性大腸炎などは、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる病気です。こちらも血便、下痢、腹痛をきたしますが、やはり「突然発症する」というよりは、何週間、あるいは何ヶ月も前から慢性的に粘液の混じった血便や下痢が続いているという経過の違いで見分けることができます。

このように、血便という一つの症状であっても、「どのような順番で症状が出たか(時系列)」「お腹の痛みを伴うか」「痛みのない出血か」を問診や初期の診察で丁寧に整理することで、私たちは検査を行う前の段階から、かなり正確に病気の的を絞り込むことができるのです。

血便をきたす主な病気の症状比較(腹痛・下痢・血便・経過)

虚血性腸炎の3つのタイプと、現在の実態

虚血性腸炎は、発症したあとの経過や腸のダメージの深さによって、大きく3つのタイプに分類されます。これは「Marston(マーストン)分類」として古くから知られているものです。

① 一過性(いっかせい)型

最も多いタイプです。大腸粘膜の表面だけの軽いダメージで、数日の経過で痛みも血便も速やかに、かつ後遺症もなく綺麗に治ります。

② 狭窄(きょうさく)型

炎症が深く及んだタイプです。1ヶ月ほどお腹の張りや下痢が続いた後、傷が治る過程で腸が引きつれて狭くなり(狭窄)、腸閉塞を起こすことがあるとされています。

③ 壊死(えし)型

最も重篤なタイプです。完全に血流が途絶えて腸の壁が腐ってしまい(壊死)、腸に穴が空く(穿孔)こともあります。命に関わる汎発性腹膜炎などを引き起こし、緊急手術が必要になるとされています。

昔の教科書データと、現代の臨床現場との「大きなズレ」

このMarston分類が発表された1960年代の古い報告では、一過性型が約65%、狭窄型が約25%、壊死型が約10%とされていました。しかし、現代の臨床現場にいる私たち消化器専門医の感覚からすると、この比率は実態と大きくかけ離れています。

当院では年間5,000件以上の大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行っていますが、これまで狭窄をきたした虚血性腸炎を診断したことはありません。もちろん、命に関わる壊死型に遭遇したこともありません。診察するほぼすべての患者様が、綺麗に治る「一過性型」です。

なぜ、過去の報告と当院の状況にこれほどの違いが生じているのか、理由は2つあると考えています。

理由1:昔(1960年代)と現代の「検査・診断技術」の圧倒的な差
Marston分類が作られた時代は、現在のようにきわめて診断能力の高い「マルチスライスCT」や「高精度な大腸カメラ」が発達していませんでした。そのため、当時は「壊死型虚血性腸炎」と診断されていたものの中に、現代の基準で精密に検査すると別の病気、例えば上腸間膜動脈閉塞症や、NOMI(非閉塞性腸管虚血症)、あるいは別の原因による大腸穿孔などが多く含まれていたのではないかと思います。

理由2:重症の方は救急で総合病院へ搬送されるため
壊死型になると、持続する耐え難い激しい腹痛や、血圧や呼吸状態が悪化するショック状態など、極めて重篤な経過をたどります。そのため、自力で歩いて当院のようなクリニックを受診するのではなく、最初から救急車で総合病院へ搬送されて診察を受けている可能性があります。

しかし、当院の医師が過去に勤務していた大学病院や総合病院でも、壊死型の虚血性腸炎に遭遇したことはありません。狭窄型や壊死型虚血性腸炎は存在するとしてもきわめて稀なものではないかと考えています。

実際に、米国消化器病学会(AGA)の医学雑誌『Gastroenterology』や、米国消化器内視鏡学会(ASGE)の関連データ、および『The American Journal of Gastroenterology』に掲載された最新の臨床ガイドラインなどの大規模な疫学調査によると、現代の虚血性腸炎は、その約85%〜95%以上が後遺症を残さずに改善する「一過性型」であると報告されています。

ネット上では「10%は腸が腐る」「緊急手術が必要となる」といった怖い情報が出てきて不安になるかもしれませんが、診断技術が進化し、早期に適切な治療を受けられる現代においては、実際にはそのほとんどが一過性型で、過度に恐れる必要のない病気に変わっているのです。

虚血性腸炎の診断:なぜ当院は積極的に「大腸内視鏡検査」を行うのか

虚血性腸炎の診断は、一般的にはCT検査が有用とされています。しかし、当院では患者様の全身の状態(血圧や脈拍など)が安定していると判断した場合、積極的に「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」を行っています。もちろんCTも優れた検査ですが、急性期に大腸カメラを行うことには、実際の臨床上、そして患者様の心理上、非常に大きな意義があると考えています。

大腸カメラを積極的に行う理由

最大の理由は、患者様が一番心配されているであろう「大腸がん」や「命にかかわる大出血」の可能性を、その場で直接見て完全に除外できる点です。

内視鏡で大腸の粘膜を観察すると、大腸がんがないことや出血が止まっていることを画面上で直接確認できます。もし腸の中に「残り血(古い血液)」がたまっている場合は、検査中にきれいに洗い流してしまうことができるため、検査後に血便がピタッと止まり、患者様に心から安心していただけます。

「重篤な病気(がん)がないこと」と「血便が止まっていること」を自分の目で確認していただくことは、当院が掲げる理念「安心感を提供する」ことそのものだと思います。

当院の大腸カメラ検査について詳しくはこちら

ひと目で判別できる、虚血性腸炎の「特徴的な内視鏡像」

虚血性腸炎の大腸粘膜には、専門医が見ればひと目でそれと分かる、非常に典型的な特徴(内視鏡像)が現れます。

縦走(じゅうそう)する発赤:腸の走る向き(縦方向)に沿って、一本の帯のように赤み(発赤)が広がります。
偽膜様(ぎまくよう)所見:傷ついた粘膜の上に、白色調のペタッとした盛り上がった組織(偽膜)が付着します。腸の中にあるので湿ったペタッとした組織ですが、これが皮膚にあれば、要は「かさぶた」と同じようなものです。
うろこ状粘膜:まるで魚の鱗(うろこ)のように、小さく区画された領域が集まった独特の模様を呈します。

これらの炎症所見が「S状結腸」や「下行結腸」といった大腸の左側エリアだけにピタッと境界線を持って認められるのが、虚血性腸炎のきわめて特徴的な姿です。

「最短当日〜1週間以内」に検査を行う重要性

虚血性腸炎は非常に治りが早い病気です。そのため、発症から長い時間が経過してから検査を行うと、すでに傷が修復されて「治癒したあとのきれいな粘膜」だけを見ることになってしまいます。

治っているのは良いことなのですが、これでは「本当に虚血性腸炎だったのか」を正確に判断(確定診断)することが難しくなります。当院では、患者様の体調に問題がなければ、最短で受診日当日、遅くても1週間以内に大腸内視鏡検査を行える体制を整えています。急性期の生々しい特徴を見逃さずに捉えることが、正確な診断には不可欠なのです。

腹痛がある時期でも、なるべく痛みの少ない検査を

お腹に痛みが残っているタイミングで内視鏡を入れるのは不安かと思います。そこで当院では、患者様が少しでも楽に検査を受けられるよう、以下の工夫を徹底しています。

適切な鎮静剤の使用:意識をウトウトとリラックスさせた状態で(というかほとんどの方は寝ています)、痛みを感じないように検査を行います。
二酸化炭素(CO2)による送気:腸管を膨らませて観察する際、一般的な空気ではなく、空気の約130倍も速く血中に吸収される「二酸化炭素」を使用しています。そのため検査中に腸の中を送気して膨らませても、検査後にお腹が張って苦しくなることがほとんどありません。

血便が出ると誰しもパニックになりますが、適切なタイミングでの痛みのない大腸カメラこそが、不安を最も早く解消する近道です。
※鎮静剤などの効果には個人差がございます。

虚血性腸炎の治療と予防

治療について:最大の治療は「腸を休ませること(安静)」

虚血性腸炎の最大の治療は、傷ついた腸を「休ませること(安静)」です。一番ひどい時期(腹痛や血便が激しいとき)は絶食していただくのがベストですが、痛みと血便が軽減していれば、段階的に食事を再開しても大丈夫です。

軽症(一過性型)であれば、特に入院は必要ありません。発症から数日以内に痛みは軽減していますので、軽めの食事を行って痛みが誘発されないことを確認しながら食事量をもとに戻していきましょう。

当院ではこれまでに虚血性腸炎による腸の穿孔(穴が空くこと)を経験したことはありませんが、万が一、重篤な状態に陥る可能性があると判断した場合には、即座に緊急入院や手術に24時間対応できる提携総合病院の外科をご紹介し、万全の連携体制を整えています(実績としては紹介が必要となった事例はありません)。

予防について:確実な予防策はないものの、便秘と水分摂取がカギ(再発率は約6.8〜16%)

海外の医学雑誌の調査データなどによると、虚血性腸炎は約6.8%〜16%の確率で再発するリスクがあると言われています。「これをすれば100%防げる」という確実な予防策はありません。しかし、虚血性腸炎は「頑固な便秘によるいきみ(腸管内圧の上昇)」や「脱水(水分不足による血流悪化)」が大きな引き金になることが疑われています。そのため、当院では以下の2つのアプローチを積極的にすすめています。

積極的な水分摂取(1日1,500mlが目安): 虚血性腸炎は血流不足で増悪することが疑われるため、水分摂取を積極的に行うことをすすめています。水分をとる量は個人の「習慣」によることが大きく、自分では飲んでいるつもりでも、意識しないとしっかり水分をとれていない人が非常に多いのが実情です。

厚生労働省などの公的データや国内外の医学的な基準によると、成人が1日に必要とする水分量は全体で約2.5リットルとされています。このうち食事から摂取できる分などを差し引くと、「純粋に飲み水(飲水)として、1日あたり最低でも1.5リットル(1,500ml)」は飲む必要があります。コップ1杯(約200ml)を1日に7〜8回に分けて、こまめに飲む習慣をつけていきましょう。

負担の少ない根本的な便秘治療: 便秘がちの方には、適切な便秘の治療を行います。ただし、市販の「お腹を刺激して無理やり動かす下剤(刺激性下剤)」を使い続けると、かえって腸管の圧力を高めて再発の引き金になることがあります。当院では、お腹に負担をかけずに便を柔らかくする新しいタイプのお薬(上皮機能調節性下剤など)を用いて、体に優しい排便コントロールを行います。ちなみに水分摂取は便秘治療にも有効です。

おなかの急な痛み・血便は、我慢せず当院へご相談ください

虚血性腸炎は、決して高齢者や持病のある方だけの病気ではなく、若い世代や持病のない方を含め、誰にでも突然起こりうる病気です。しかし、適切な初期診断を行えば、過度に怖がる必要のない病気でもあります。

当院は、おなかの専門クリニックとしての「高度な内視鏡検査」と、お尻の悩みに向き合う「肛門科」の双方の視点から、血便や腹痛の原因をスピーディーに、かつ正確に突き止めます。

「夜中にお腹が痛くなって、血便が出た。痔だと思っていたけれど大丈夫かな?」「普段から便秘がちで、あの強い痛みが来たらどうしよう……」どんな些細なことでも構いません。我慢して病状を悪化させてしまう前に、年間5,000件以上の確かな内視鏡診断実績を持つ、当院の「おなかと内視鏡の専門外来」までお気軽にご相談ください。

当院の診療のご予約はこちら

当院は幅広いエリアから
ご来院いただいております

当院は幅広いエリアからご来院いただいております

当院では幅広い地域の方からご来院いただいております。地元の流山市、松戸市、柏市はもちろん、埼玉県の八潮市や三郷市は比較的近く、八潮駅から電車で6分、三郷駅からは電車で3分でご来院いただけます。 遠方からも診察や内視鏡検査(胃カメラ検査・大腸カメラ検査)目的で来院してくださっています。千葉県では我孫子市や白井市、鎌ヶ谷市、船橋市、浦安市、市川市、野田市、そして東京都からは葛飾区、江戸川区、足立区、墨田区、江東区の方がご来院してくださっています。埼玉県からは八潮市と三郷市に加え、草加市や川口市、吉川市から、茨城県からは守谷市や取手市、つくばみらい市やつくば市、常総市からもお越しくださっています。
また、当院の最寄り駅である「南流山駅」はアクセスが良く、様々な路線からお気軽にお越しいただけます。例えば、東武アーバンパークラインでは西は春日部駅から東は新鎌ヶ谷駅まで、つくばエクスプレスでは北はつくば駅から南は北千住駅まで、武蔵野線では西は東川口駅から南は西船橋駅までと、お乗り換え無しで幅広い地域の患者様がいらっしゃっています。常磐線では松戸駅や柏駅、取手駅からご乗車いただき、新松戸駅でお乗り換えいただくと簡単にお越しいただけます。

当院は幅広いエリアからご来院いただいております