下痢とは
便に含まれる水分が多くなり、軟便や水様便になるのが下痢です。下痢が続くと体内から水分が失われ脱水になるだけでなく、体のミネラルや栄養分も失われます。また水様便の刺激で肛門周囲に炎症を起こして不快感が生じたりもします。下痢が続くと命に関わる事態に陥ることもあるので、速やかに対処することが望ましいです。
受診が必要な症状
- 今までに経験したことがないような激しい下痢
- 便に血が混じっている
- 吐き気や嘔吐、発熱もある
- お腹の痛みが治まらない
- 同じ食事をしている人も同じような下痢をしている
- 症状がどんどん悪くなる、あるいは一向に改善する気配がない
- 尿が少ない、体がだるいなど、脱水症状がある
下痢の種類
浸透圧性下痢
腸から吸収されない食事成分の場合、腸の中と外でその成分の濃度が異なります。すると濃度差を薄めようと腸の外から中に向かって水が流入します。例えば、キシリトールは人の腸では消化、吸収されないので血糖値を上げることなく甘味を感じることができます。吸収されないので、腸の中にはキシリトールがあり、腸の外にはありません。すると腸の内外でキシリトールの濃度差が生じます。この濃度差を少なくする働きで水分が腸の外から中へ染み出します。乳糖不耐症の方が下痢になるのも乳糖が消化されずに浸透圧性に腸へ水分が流入するためです。
分泌性下痢
感染性腸炎の原因となる細菌が作り出す毒素や暴飲によって腸が刺激を受けると、腸の粘膜から水分が分泌されて腸内に流入します。この分泌される水分量が多くなると下痢になります。下痢の時にすぐに下痢止めを使わないのは、細菌毒素による下痢を薬によって止めた時、感染性の細菌や毒素を腸の中にとどめてしまう恐れがあるからです。
蠕動(ぜんどう)運動性下痢
大腸は便を口側から肛門側に送り出すために、縮んだり伸びたりしています。この運動を蠕動(ぜんどう)運動といいます。蠕動運動が過剰に起こると大腸で十分に水分が吸収されないまま便となって排泄されることになります。そのために生じる下痢を蠕動運動性下痢といいます。過敏性腸症候群や甲状腺機能亢進症(バセドウ病)で起こる下痢は蠕動運動性下痢です。また、刺激性下剤(センナやダイオウ、ビサコジルなど腸の蠕動を刺激する下剤)を飲んで下痢になるのも蠕動運動が過剰に起こるためです。
滲出性下痢
腸に炎症や潰瘍があると、そこから血液や腸の細胞の中にある水分が染み出してきます。それによって便の水分量が増えて下痢になることがあります。腸に慢性的な炎症を起こす潰瘍性大腸炎やクローン病で起こる下痢は、浸出液が過剰になることと、腸管の水分吸収の力が低下することによって起こります。
下痢の原因と期間
体の外か入ってきたものが原因となる下痢を「外因性」下痢、体の中に原因があるものを「内因性」下痢と区別することができます。人には消化できないキシリトールなど摂取することで生じる下痢や、食べすぎ飲みすぎで消化不良を起こして生じる下痢は浸透圧性下痢であり、外因性下痢です。過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病などで生じる下痢は、腸の機能異常や炎症が起こることで生じる下痢であり、内因性下痢です。
多くの場合、外因性下痢は一過性のものなので、様子を見ていると軽快することが多いです。一方内因性下痢は長く続くことがあります。下痢が長く続く場合はその原因を調べて適切に治療することが必要です。急性の下痢で脱水症状が出る時や、下痢が長く続くときなどは、体調が悪化しないように適切に治療を行うとともに、精密検査を受けることが必要です。
下痢を起こす疾患
ウイルス性胃腸炎
ロタウイルス・ノロウイルス・アデノウイルスなどさまざまなウイルス感染によって下痢の症状が現れます。下痢の症状の他、腹痛・吐き気・嘔吐・発熱などが伴います。ウイルスによって流行する季節に特徴があります。脱水の予防など対症療法を行います。
過敏性腸症候群
炎症やポリープなどの病変が無いにもかかわらず、機能的な異常によって下痢の症状が現れることがあります。腹部の痛みなど不快症状を伴うものを、過敏性腸症候群(下痢型)と言います。緊張やストレスで症状が増悪することがあります。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎では、大腸に慢性的に炎症や潰瘍が生じて水分の分泌、吸収不良が起こるために分泌性下痢となることがあります。下痢事自体について対症療法を進めますが、下痢が起こらないようにするために炎症を抑える必要があります。
クローン病
クローン病は潰瘍性大腸炎と同じく難病指定されている炎症性腸疾患です。潰瘍性大腸炎は大腸にだけ炎症や潰瘍が生じますが、クローン病では小腸にも炎症や潰瘍が生じるため、栄養の吸収障害が起こります。炎症部位から水分が分泌されたり、腸からの水分吸収が低下したりすることで下痢になります。クローン病では自覚症状がなくても、炎症が進むと将来的に腸に穴が空いたり、腸が狭くなったりするリスクが高くなります。定期的に診察を受けて、適切な治療が必要な病気です。
大腸癌
大腸癌は早期の段階ではほとんど何も症状が出ません。癌が進行して大きくなるにしたがって、便秘や下痢などの症状が出てきます。癌のために症状した症状は放置して治ることはありません。いつも違う排便状況になっているときは、まず癌ではないことを確認することが必要です。
下痢の治療
食べすぎ、飲みすぎなどで生じる急性下痢は体の外から入ってきたものが原因で生じます。ウイルス感染による下痢も含めて、通常は数日以内に治ります。下痢の時は消化、吸収の働きが弱くなっているので、食事を控えめにしましょう。また、脱水が進んで全身状態が悪化しないように水分をしっかりと摂ることが大事です。下痢が続いて水分摂取が追い付かない、嘔気、嘔吐して水分摂取ができないときなどは、点滴治療を行うことで回復が早くなります。また、細菌感染による下痢を診断したときは抗生物質を使うこともあります。
下痢の期間が1か月以上にわたるような、慢性下痢の場合は対症療法では改善しないことがあります。必要に応じて血液検査や内視鏡検査など、詳しく原因を調べます。原因を診断して、適切な治療を行うことが必要です。